8th Live パンフレットより Concertmasterによる曲目解説 その2

2nd set
walkin’ about
再び Thad Jonesのミディアムスウィングナンバー。
ピアノのイントロに続いて始まる、 brass sectionのハーモニーによるテーマが軽快な曲です。
テーマ、ソロのバッキング、トゥッティ、全編にわたってbrass sectionの様々な表情が楽しめます。
一方、sax sectionは何をしているのかというと・・・ほぼ何もしていない。というある意味斬新な譜面です。
そのかわりといっては何ですが、2つのソロスペースはsax sectionが務めます。

one finger snap
Herbie Hancockの有名曲です。オリジナルは、1964年の”Empyrean Isles”に含まれています。
名盤”Maiden Voyage”が1965年ですから、その前年の作品となります。

Mel Lewis Jazz Orchestraは、1981年にHerbie Hancockの曲ばかりで構成したアルバム(”Live in Montreux”)を発表します。アレンジはBob Mintzerによるもの。
dolphin dance、the eye of the hurricaneなども含むこのアルバムのビッグバンドアレンジは、学生にも人気が高く数多く演奏されています。また、Mel Lewis Jazz Orchestraの後継バンドであるVanguard Jazz Orchestraでも、演奏され続けています。
今やスタンダードといっても良いこの曲。今もなお新鮮に感じるHerbieのメロディとコード、ビッグバンドアレンジの妙をお聞き下さい。

 

extra credit
私達make me smile jazz orchestraは、長い歴史を持つThad Jones = Mel Lewis Jazz Orchestra / Vanguard Jazz Orchestraの活動期間の中でも、80年代のMel Lewis期間に注目をしています。
この期間の重要なアレンジャーといえば(私見ですが)、Bob Brookmeyerと、それからこの曲のアレンジャーであるJim McNeelyの二人と言えるかもしれません。
Jim McNeelyのこれまた斬新なアレンジは、言葉では表現し難いものですが、Brookmeyerとはまた違った形でオリジナリティを獲得しています。
ですので、あえて言葉にはいたしませんが、McNeelyならではの音世界を味わっていただけたらと思います。

skylark
1942年に発表されたJohnny Mercer / Hoagy Carmichaelによるナンバー。
作詞の Johnny Mercerは、このメロディに合う歌詞を書く事ができず、 1年の時間を費やしたそうです。
歌詞の内容は、主人公が春の空高く飛びゆくヒバリ(skylark)に、自分の思いを託すというもの。

ヒバリよ、何か私に言うことはないの
私の愛しい人が何処にいるのか、教えてはくれないの
名も知らぬ、霞に包まれた草原に
私の口づけを待ってる人はいないのかしら

多くのジャズ・ミュージシャンにも愛され、このskylarkは数多い録音が残されています(本当に多くの録音があり、どれが名演と選びづらいですが、個人的には比較的近年のカサンドラ・ウィルソン、それからマイケル・ブレッカーの録音を好んでいます)。
いずれの録音も、この雄大なメロディに導かれたかのような、空を飛ぶヒバリに心を託すような、聞きながら映像が浮かぶような演奏が心に残ります。
この曲がとらえたのはジャズ・ミュージシャンだけでなく、映画人にも影響が及んだようで、クリント・イーストウッド監督が1997年に撮った「真夜中のサバナ」では、冒頭にこの skylarkがかかります。その優美な映像は、曲の持つ雰囲気と相まって、映画の舞台となるアメリカ南部の空気感まで伝わるようで印象深いものでした。

今回のBob Brookmeyerによるアレンジは、それらに引けをとらない彼ならではのアレンジとなっています。皆様の心が、ヒバリの翼に乗って飛び上がれますように。

61st and rich’it
最後の曲も、Thad Jonesのナンバーとなりました。曲自体はミディアムテンポのスウィングが心地良いナンバーで、軽やかでちょっとファニーなメロディラインは、ユーモアあふれるThad Jonesならではと言えるのではないでしょうか(昔、この曲に歌詞をつけたメンバーがいましたが、曰く「五十歩百歩~」どの部分がそれかは聞いてのお楽しみ)。

また、Thadアレンジの特徴の一つとして木管楽器の絶妙な使い方も挙げられると思います。
フルートやクラリネットを使ったアンサンブルは、普段のビッグバンドとはまた違った印象を与えるのではないでしょうか?sax sectionのメンバーも楽器を持ち替えながらの奮闘です。(ちなみに、ある4小節の間に楽器の持ち替えを行います。無事間に合うのかどうか手に汗握る瞬間です。間に合わなかったらご愛嬌という事で。)
一方のbrass sectionもいくつかのミュートを使い、音のバリエーションを出しており、イントロからラストまで様々な表情を見せるThadアレンジにご注目ください。

と、これで曲の解説はお終いですが、本日のセットリストには含まれていないものの、バンド名称の由来となっているmake me smileについても触れたいと思います。
make me smileは、Bob Brookmeyerの作品で、過去に来場された事のある方にはパーカッションを使う曲として覚えていらっしゃる方もいるかもしれません。なんといっても、不思議なメロディ、愉快なリズムとハーモニー。

1995年に結成されたmake me smile jazz orchestraですが、当初はこのmake me smileを演奏するのが目的でした。
Brookmeyerの楽しいアレンジが我々を魅了したのは勿論のこと、この曲を演奏し始めてから15年以上が経過しました。バンド名称が功を奏したのか、近年のVanguard Jazz Orchestraの来日公演では、この曲を演奏する際に、ステージに呼び出されJohn MoscaやDouglas PurvianceといったLegend達と一緒のステージでパーカッションを叩かせて頂くというチャンスにも恵まれました。
作者であるBob Brookmeyerは、一昨年(2011年)永眠されました。多くの追悼が寄せられました。これ以降新しい作品が聞けないという事実は悲しい事ではありますが、しかしながら彼の音楽はずっと生き続けます。Vanguard Jazz Orchestraは、現在彼の最後の作品を含むアルバムの製作中と聞いています。

これからもずっと、Bob Brookmeyerの作品を演奏していきたいと思います。限りない楽しさとsmileを与えてくれた名曲make me smileと共に、当バンドmake me smile jazz orchestraを引き続きご愛顧願います&一緒に音楽を楽しみましょう:)

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